2018年5月8日

慰謝料姉弟



その姉弟は、
二人そろってめでたく五十代に突入し、
昨年秋から共に暮らすことになった。

姉の人は、
涙を生きている人に流したことはあっても
死んでいく人には一切流したことがない人であった。

弟の人は、
涙を死んでいく人に流したことはあっても
生きている人には一切流したことがない人であった。

姉弟はそれぞれ、
過ごして来た日々に、
現在、慰謝料を支払いながら共に暮らしている。

今朝、隣に住む婆さんが死んだところだ。

姉は株の動向をチェックし、
弟はリモコンにたまったホコリをチェックしている。





2018年4月22日

Tokyoの街の明るさについてのトキオ君の見解



「「Tokyoの空には星がない」なんて、簡単に言わないでほしい。

 まずこうして光を遮って、どうにかして見てみてくれよ。
 時間はかかるし、ほんのわずかだが見えてくる星がある。

 それで物足りなかったら、
 その時はもう心の目で見ろ。想像してその存在を感じたまえ。
 星がそこにあるのは確かなんだから。

 満天の星をなんて言うのであれば、
 それが見える場所に自ら出向むくべきだ。

 Tokyoの街の明るさは、星がないって理由で
 簡単に嫌っていい相手じゃないさ。」



2018年4月5日

平日の天国の歩行者 セキグチ君(14歳)



セキグチ君は思う。
昨日の晩観た映画の主人公のように、
ミュージシャンになる夢を追いかけて
学校を辞めて、ギターとボストンかばんひとつでワイルドに上京できたら
どんなに気持ちがいいかと、

こんな想いを抱きながら、
いま歩いてるこの道が、田舎道なら絵になるけれど、

ここは銀座のマロニエ通り。
ここはセキグチ君の通う中学校の通学路。

学校からの帰り道、
空き缶を思い切り蹴りたい気分だけれど、
セキグチ君の目に止まるものは、
せいぜい空になったスターバックスの容器がひとつ、
ビルの消火栓の下に控えめにポツンと置いてあるだけだった。
それすらもきっと、すぐに掃除されてまた元どおりになるだろう。

「ああ、
 ここは文化が溢れている上に
 いつも綺麗に整備されていて
 まるで天国みたいな場所だなぁ!」と

悔しさを滲ませて、
ブルガリの前で地団駄を踏んだ足音はあまりにも乾いていて、
きっとセキグチ君にしか聞こえなかった。






2018年3月25日

新曲



いま生きているこの時代を、
なんとかみんなで前向きに、
明るく生き抜いてみせるから、

どうかこの時代の新曲を、
たくさんたくさん作ってネ。


2018年2月22日

春は百パーセントもうすぐそこですよ!!! (^○^)/≡☆





春はもうすぐそこである。

どんなに今が冷え込んでいても、
どんなに暖かさを信じられなくても、
どんなに穏やかな時間と無縁に思えても、
たまによぎる暖かい日を、素直に受け入れることができなくても、
次の桜までにはと掲げてた目標が達成できそうになかったとしても、
部屋の植物を枯らしてしまったことは寒さを言い訳にし続けたくても、
さらに欲を出して、全てのことはこの寒さを言い訳にし続けたくても、
ずっとこのまま永久にこたつに入っていたくても、
いっそのこと春はもう少し待ってくれないかと、どれだけお願いしたとしても、

このまま普通に進んで
ちょっと行った先の道の角を曲がったら、
もうすぐそこが春である。

いまどんな時間を過ごしていても
この後は必ずたくさんの花が咲き始めて、
キラキラした光が溢れてきて、
春の風が吹いてきて、たくさんの命の匂いも立ち込めて
朝も起きる時間に日差しが差し込んで、
夕方帰る時間に夕焼けで、
暖かく、穏やかで、緊張も和らいで、

楽しい時間が嬉しくて、嫌な時間も楽しくて、

そしてそれがちゃんと普通なことになるくらい、
春はもうすぐそこである。
春は必ずやってくる。
百パーセントの可能性で、もうすぐそこなのだ。




2018年1月5日

空を飛べる条件



線路沿いを散歩中、
晴れやかな空を飛んでいる鳥を見て
ケイさんは毎度のことながら、

「いいなぁ」

と呟いた。
するとすれ違いざまに老犬がこう言った。

鳥は空を飛ぶために、歯を捨てたのだ。
 お前にその歯を捨てる覚悟はあるかい?」

老犬の言葉に、
ケイさんは返事をすることなく
引き続き、黙って散歩を楽しんだ。


今日も天気が良くて、
とても気持ちがいいもんだ。